現代の子どもたちは、テレビ、ビデオ・DVD、携帯電話、インターネット、携帯用ゲームなど、多種多様のメディアに取り囲まれて育っています。メディアは便利である反面、子どもの心身の発達を妨げる要素を数多く含んでいます。とくに “メディア漬け” の状態は、子どもにとって “百害あって一利なし” です。メディアとの上手な付き合い方を考えてみましょう。
メディア漬けがもたらす弊害の第一は、親子の愛着形成が阻害されることです。携帯メールを操っていたりテレビ・ビデオを見たりしながら授乳している(あるいは食事を与えている)と、子どもは親の目や表情を見たり親の語りかけを聞いたりすることができず、親に対する愛着が少しも湧いてきません。授乳や食事は、親子が触れ合う大事な場です。親がまずメディアから距離を置き、わが子としっかり向き合うことが大切です。
メディア漬けがもたらす弊害の第二は、言葉の育成が阻害されることです。子どもの言語能力は、親との双方向の関わり合いの中で発達します。子どもに分かりやすく話しかけ、子どもの発語をゆっくり聞いて応えるという、生身の体験が必要です。実体験を伴わない、映像メディアからの一方的な通行だけでは、言葉は決して得られません。コミュニケーション力もつきません。日本小児科学会の調査研究によると、言葉の遅れや表情の乏しさを抱える子どもの中に、メディア漬けの生活を止めた途端に語彙が著しく伸びた一群があります。また、子どもが4時間以上テレビを見ている家庭やテレビが8時間以上ついている家庭では、そうでない家庭に比べて言葉の出現が遅れるという調査結果も出ています。
弊害の第三は、情緒や生命感覚にゆがみが生じることです。幼児期からの暴力映像への長時間の接触が後年の暴力的な行動や事件に関係することが、日本や米国の調査研究で明らかにされています。また、相手を殺しても簡単にリセットできる仮想の世界に長時間さらされていると、現実の世界での生命感覚がゆがんできます。ペットが死んだ時に、「パパ、電池を入れ替えてよ」と言った5歳児の話は、可笑しさではなく恐ろしさを感じます。
弊害の第四は、体力や運動能力の低下です。メディア漬けは外遊びや身体を使った遊びの機会を奪います。第五は、生活リズムの乱れです。メディア漬けは遅寝遅起きを助長し、慢性時差ぼけの状態を作ります。第六は、感覚の異常です。人工的で過剰な音や光の中に置かれて育つと、静寂な環境下で落ち着くことができなくなります。以上の弊害は、とくに乳幼児期に注意すべき項目です。学童期以降は、携帯電話・インターネット・ゲーム依存症の問題が新たに出てきます。
メディアへの適切な対応は、生まれた直後から(あるいは赤ちゃんがお腹の中にいる時から)始めなければなりません。日本小児科医会はメディア対策として、以下の五つを提言しています。いずれも重要な内容です。皆様のご家庭におかれましても、ぜひご検討ください。
① 2歳まではテレビ・ビデオの視聴を控えましょう。
② 授乳中、食事中のテレビ・ビデオの視聴をやめましょう。
③ メディアに接触する総時間を制限しましょう。テレビは1日2時間まで(ゲームは1日30分まで)が目安です。
④ 子どもの部屋にテレビ・ビデオ・パソコンを置かないようにしましょう。
⑤ 保護者と子どもでメディアを上手に利用するルールを作りましょう。