2011年4月6日

細菌性髄膜炎を防ぐワクチン二種(改訂第七版)

 細菌性髄膜炎を起こす原因菌の80~90%がヒブと肺炎球菌です。ヒブと肺炎球菌を防ぐワクチンは、すでに諸外国では定期接種として広く普及しており、今や細菌性髄膜炎を見る機会はほとんどありません。二次的な効果として、ヒブと肺炎球菌による肺炎や中耳炎など重症疾患の発生も著しく減っています。さらに三次的な効果として、同居するお年寄りの肺炎も著しく減っています。子どもが肺炎にかからないため、お年寄りもうつされることがなくなるからです。一方、日本ではワクチンの認可が遅れていたため、今も年間に約千人の子どもが細菌性髄膜炎にかかり、その四分の一が尊い生命を失ったり重い後遺症に苦しんだりしています。欧米先進諸国に比べ、日本のワクチン政策は約十年から二十年遅れています。その間に救えたはずの生命は数百人にのぼります。近年ようやく厚生労働省は重い腰をあげ、平成20年12月にヒブワクチン(アクトヒブ)、平成22年2月に小児用肺炎球菌ワクチン(プレベナー)を認可しました。この二種類のワクチンを接種することで、細菌性髄膜炎の85%は予防できます。

 ワクチンの接種方式は、定期接種ではなく任意接種の扱いにとどまっています。任意接種では子どもを完全に守りきることはできません。任意接種は、その重要性が十分に理解されないことが難点です。親御さんの中には、「”定期接種” は必要なワクチンで、”任意接種” はどちらでもいいワクチン」と認識している方もいらっしゃるかもしれません。しかし決してそうではなく、必要かつ重要なワクチンであることは、諸外国がワクチンの力で細菌性髄膜炎を過去の病気へ追いやった事実から明らかです。現状では、細菌性髄膜炎の恐ろしさを知る方だけがワクチンの恩恵にあずかっています。情報の格差が生命の格差につながるのです。当クリニックは、ワクチンの重要性について声を大にして皆様にお伝えしたいと思います。

 今年3月、ヒブワクチンと小児用肺炎球菌ワクチンを接種した数日以内に死亡したケースが相次いで報告されました。しかし、厚生労働省が主催した専門家会議(3月24日)で、「ワクチン接種と死亡との間に直接的な明確な因果関係はない」「複数のワクチンを同時に接種しても、重い副反応の増加は報告されていない」と結論され、3月4日から中断されていた接種が4月1日に再開されました。死亡例の中には重い心臓病の方もおられましたし、乳幼児突然死症候群(SIDS)で亡くなられた方もいると聞きます。大勢の子どもたちがワクチンをいちどきに接種すると、どうしても他の病気(先天異常、感染症、SIDSなど)の紛れ込みを生じます。接種後30~60分以内に重篤なアレルギー反応(アナフィラキシーショック)が起こった場合を除き、ワクチンが原因で死亡したと断定できるケースはまずありません。ワクチンと死亡との間に因果関係が無いことは、米国などにおける調査・研究ですでに結論が出ています。世界保健機構(WHO)を含む諸外国では、ワクチンの接種を中止することによる不利益(髄膜炎で亡くなる子どもが増えること)を考慮し、因果関係が証明されない限りワクチンを原因としません。今回の専門家会議の決定は、世界標準の考え方に従ったものといえます。

 ワクチンの効果と安全性(副反応)を冷静に比較検討した場合、ワクチンを接種することが子どもの健康に益することは間違いありません。ご自分の子どもが細菌性髄膜炎にかからないために、二種のワクチンの接種をぜひお勧めいたします。