子どもが風邪をひいたら風呂に入れないというのは、長年にわたる「常識」でした。今でも国内の育児書の多くは、風邪の時の入浴をなるべく避けるように指導しています。しかし、風邪をひいた子どもの入浴を禁止することについて、明らかな医学的根拠は存在しません。それどころか、欧米諸国では風邪の時の入浴を積極的に推奨しています。どうして習慣がまったく逆になったのでしょうか。一体どちらが正しいのでしょうか。
銭湯が一般的だった時代、熱い風呂に長く浸かって体力を消耗したり、寒い帰り道で湯冷めしたりして、風邪を悪化させるケースは少なくなかったと推測されます。入浴を禁じる理由はそのあたりにありそうです。しかし、住宅事情が良くなりほとんどの家庭が内湯を備えている現在、昔ながらの風習をそろそろ見直してもよい時期でしょう。
風邪の時に入浴した子どもと入浴しなかった子どもの経過を比較した研究があります。その結果は、「入浴してもしなくても、症状が出ている期間や合併症に差異はない」というものでした。また別の研究では、風邪の時に入浴して症状が「悪くなった」と答えた人は2.2%だけで、ほとんどの人は「良くなった」(15.4%)または「変わらなかった」(82.4%)と答えています。つまり「入浴しても風邪の症状に悪い影響は及ばない」という結論でした。
以上の研究成果ならびに自分自身の経験をもとに、当クリニックで親御さんにお伝えしている「風邪の時の入浴法」について解説いたします。
(1) 高熱が出ていたり、強い悪寒がしたり、身体が重い(倦怠感が強い)状態では、入浴をお勧めしません。入浴は体力を消耗させるからです。
(2) 熱がそれほど高くなく、状態が落ち着いていれば(食欲や機嫌が悪くなければ)、入浴しても構いません。ただし、熱い風呂・長風呂・風呂遊びを避けること、冬は脱衣所・浴室・居間または寝室をあらかじめ暖めておくこと、入浴後は湯冷めしないように素早く身体を拭くこと、などに留意してください。お湯は40℃以下が適温です。浴槽に浸からずシャワーで身体を洗い流すだけでも、皮膚の清潔は十分に保てます。腰から下だけ湯に浸かる半身浴もいいでしょう。洗髪は禁止しませんが、入浴後に温風で素早く髪を乾かしてあげましょう。
(3) 子どもが入浴を嫌がるようならば、無理強いはいけません。浴槽に入らなくても、湯を浸したスポンジやタオルで身体を拭くだけで、汗や汚れが取れてさっぱりします。
ちなみに、熱が出ている時に「身体をうんと暖めて汗をかかせて熱を下げる」という昔ながらの風習があります。しかしこの方法は完全な誤りです。汗をかくことで風邪が治るのではなく、風邪が治ったから汗が出て体温が下がるのです。したがって、風邪の時にわざと熱い風呂に入れて汗をかかせることは避けてください。