2019年9月9日

ゲーム障害 〜 WHOが疾患に認定 〜

 世界保健機関(WHO)の国際疾病分類に「ゲーム障害」が収載されることになりました。日本をはじめとする世界各地でゲーム障害が社会問題化していることが背景にあります。ゲームにのめり込む機序はアルコールやギャンブルへの依存と同じですが、ゲームには法的規制がない分、未成年者に多発することが特徴です。中高生のネット依存は全国で93万人(7人に1人の割合)、その90%がゲーム障害と試算されています。先日、ゲーム障害の診断と治療の第一人者である、国立久里浜医療センター院長の樋口進先生の講演を聴く機会がありました。樋口先生のお話を引用しながら、ゲーム障害の実態と対策について解説いたします。

 ゲーム障害の症状は、① ゲームをしたい衝動を抑えられない、② 日常生活の何よりもゲームを優先する、③ 健康や学業・仕事に支障をきたしてもゲームを止められない、の三つ。これらが12ヶ月以上続くと「ゲーム障害」と診断されます。ゲームにはインターネットに接続するオンラインゲームと接続しないオフラインゲームがありますが、依存症の98〜99%はオンラインゲームです。オンラインゲームの問題点は、終わりがないこと、仲間ができること(ゲームを介するバーチャルな関係に過ぎませんが)、それゆえに居心地の良さを味わえること、ガチャとよばれる課金システムにより金銭を浪費すること、などが挙げられます。

 ゲーム障害に至るプロセスは、① 耐性(快楽に鈍感になる。より強い快楽を得るためにゲームの利用時間が長くなる)、② 離脱症状(ゲームをしないと不快になる。苛々や不安を解消するためにゲームにさらにのめり込む)、③ 制御不能(ゲーム依存に対する適切な判断ができなくなる。肉体的、精神的な損失を被っていてもゲームを止めることができない)の三段階です。未成年者は理性をつかさどる脳機能がまだ弱いことに加え、生活に支障をきたしても不自由を感じないことが多いため、問題の解決が先送りになりがちです。昼夜逆転、睡眠不足、遅刻・欠席、授業中の居眠り、学業不振、登校困難などの異変が発覚して初めて、ゲーム障害に気づかれることがあります。

 ゲーム障害は精神だけでなく肉体をも蝕みます。身体を動かさず寝食を忘れて四六時中、画面を睨んでいるためでしょう。視力低下、運動不足、低栄養、骨密度低下、エコノミークラス症候群などの発生が報告されています。前頭葉の一部が萎縮するというデータもあります。家族内の対人関係の破綻も深刻です。親が注意したりスマホを取り上げたりすることで逆上し、家庭内暴力に及ぶケースが多々あります。引きこもり、留年・退学の原因にもなります。

 ゲーム障害にいったん陥ると回復は困難です。親がスマホを取り上げるだけでは問題は解決しません。子どもはどこかに抜け道を探すでしょう。スマホに関する知識は子どもの方が上です。解決への道は、子どもが自分の意思で行動を変えるように粘り強く説得し援助することです。家族だけで対応することはおそらく不可能で、精神科専門医による治療が必要です。しかし専門医の数は不足しています。できればゲーム障害に至る前に対策を立てることが肝要です。ゲームを完全に禁止することが難しい場合、最初に親子でよく話し合ってルールを決めてください。その要点は、① 機器は親が貸与し、ルールを守れない時は一時的に取り上げる(取り上げる理由、取り上げる期間を明示する)、② ゲームの時間と場所を決める、③ ゲームをしてはいけない状況を決める、④ お金の使い方を決める、⑤ ルールを書面に残し、家の中に掲示しておく。もしも危険な徴候が現れたら、ゲームに代わる楽しみを推奨しましょう。バーチャルでない現実の友人関係を大切にする、勉強や部活動に取り組む、アルバイトをする、自然体験活動を行うなど、あの手この手で介入を試みてください。医療機関、学校教師、スクールカウンセラー、友人らの力で本人に「異常」を自覚させることも問題解決の一助になります。