2019年1月20日

小児医療における迷信(1)

 当たり前のように言われていることが実は違うとか、何者かが意図的に作り出した情報が独り歩きしているとか、日常の小児医療において変だな!?と感じる事例が多々あります。今回と次回のコラムで、迷信や都市伝説の類をご紹介します。

[1] 風邪に抗菌薬が効く???
 「院長のコラム」でたびたび取り上げてきたとおり、ウイルス感染で起こる風邪に対して抗菌薬は効きません。また、風邪の段階で抗菌薬を服用しても、肺炎や中耳炎(細菌の二次感染)を予防することはできません。風邪のときに抗菌薬を服用して効いたように思えても、それは身体に元から備わっている免疫がウイルスを排除したからです。飲んだ、治った、効いた、は誤った三段論法です。飲まなくても治るのです。「とりあえず」「念のために」「一応」「熱があるから」「のどが赤いから」「鼻水が黄色いから」「風邪だけど重くならないように」などの接頭語の後に、あるいは何の説明もないままに抗菌薬を処方されたら、それは無意味な(むしろ弊害の多い)治療と思って間違いありません。抗菌薬は細菌(ウイルスとは似て非なる微生物)を攻撃する薬です。細菌感染症に関する根拠が提示されれば、それは有益な治療と考えてよいと思います。

[2] ワクチンを接種すると自閉症のリスクが高まる???
ワクチン接種が自閉症を引き起こすという説は、今なお反ワクチン論者の間で根強く信じられています。その端緒を作ったのは、1998年に英国の医師が発表した「MMR(麻疹・風疹・おたふくかぜ)ワクチンが自閉症の発症を高める」という論文です。しかし、その後にいくつもの追試験が行われましたが、両者の関連性を示す証拠は見つかりませんでした。そして、2014年に発表されたメタ解析により、ワクチン接種と自閉症の関連性は「ない」ことでほぼ決着を見ました。 さらに、英国の医師が発表したデータに意図的操作(捏造)が加えられていたことが判明し、2010年に論文は撤回され医師は免許を剥奪されました。MMRワクチン反対を唱える団体から医師に金銭が渡っていたことが不正の背景にありました。 虚偽の論文が世の中に出回ることでワクチン接種率が大幅に低下し、麻疹に罹患する子どもが増加するという、深刻な社会的被害をもたらした事件です。麻疹は500〜1000人に1人が死亡する重い病気で、他人への感染力も強大です。子どもを守り周囲の人々を守るために、風評に惑わされずワクチンを接種しましょう。

[3] ステロイド外用薬は悪魔の薬である???
 ステロイド外用薬も風評被害の代表例です。悪いレッテルを貼られたきっかけは、1980年代のステロイド訴訟に遡ります。医師の指示なく(化粧の乗りが良くなると勝手に思い込んで)、ステロイド外用薬を2年間顔面に塗り続けて皮膚炎を起こした女性が医師を訴えたのです。このステロイド訴訟をきっかけに、マスメディアの「ステロイド叩き」が始まりました。特に1992年、久米宏がキャスターを務めるニュース・ステーション(テレビ朝日系列)は1週間にわたり「悪魔の薬」の表現で執拗な攻撃を繰り返し、一般の人々のステロイド外用薬への不信感を決定づけました。当時の過熱した異常な報道の呪縛はいまだに解けていません。ステロイド外用薬を拒否して民間療法や脱ステロイド療法に走り、皮膚炎をひどくした事例は数え切れないほどあります。ステロイド外用薬はアトピー性皮膚炎の治療に欠かせない薬であり、適正に使用すれば心配のない「普通の薬」であることを強調したいと思います。