子どもに我慢を教える時期が来たら、予防接種で医院を訪れる際に、親御さんにぜひお願いしたいことがあります。「今日は注射をする日であること」「注射は病気にかからないための大切な医療行為であること(決して懲罰のためではない)」「痛いことは短時間で終わること」「痛みを我慢して頑張ったらうんと褒めてあげること」を子どもに分かる言葉で説明してあげてください。ほんのわずかでも理解できれば十分です。告知するタイミングは、前日でも、当日に自宅を出る時でも、医院に着いた時でも、いつでもかまいません。子どもの性格に合わせて決めて下さい。もしも告知をせず出し抜けに注射をすると、子どもはどう思うでしょうか。「いつものようにモシモシ、ア〜ンだけと思っていたら、いきなりチックンされた。どうして?」と、騙された気持ちになるでしょう。不意討ちはいけません。まして、「弟や妹の注射に付き合って」と嘘をついて医院に連れてきて、いきなり本人に注射をする騙し討ちは言語道断です。親や医療者への強い不信感が刷り込まれ、次回からの診療に差し障りが出ます。
注射の時は子どもの手をしっかり握り、「痛いけど頑張ろうね。お母さんが付いているから」と優しく励まして下さい。痛みや辛さに寄り添い、頑張りに共感を示す心が大切です。「三つ数えたら終わるよ」と具体的な目標を示すことも、子どもへの助け船になります。大泣きしてもオーケー。「よく我慢したね。動かなかっただけでも偉いよ」と良かった点を見つけて褒めてあげましょう。結果は二の次で、頑張った過程を褒めることが大切です。あとで御褒美を与えるのもよいと思います。とにかく褒めまくることです。子どもは大きな自信と達成感を得られますし、次の注射でも頑張ろうと前向きな気持ちになるはずです。逆に、「こんなの痛くないでしょ」「泣いたりして駄目な子ね」「我慢が足りないわよ」「御褒美はなしね」など、子どもの頑張りを否定する発言は避けるべきです。子どもは、肝心な時に親は寄り添ってくれないと感じ、親子の信頼関係は育まれません。
予防接種は、本来の目的である免疫の賦与とは別に、親が子の成長を促す好機でもあります。注射の意味と必要性を諭され、注射の際に温かい励ましを受けた子供は、次の注射でも頑張ることができます。もちろん、達成度には個人差があります。一回で我慢を覚えられる子どもがいれば、五回十回と場数を踏むことで覚えられる子どももいます。どちらが良い悪いという問題ではありません。粘り強く教えていけば、いずれ誰でも我慢できるようになります。その一方で、不意討ちや騙し討ちを受けた子ども、頑張りを否定された子どもは、我慢を覚える機会を奪われ、不信感だけが募ります。次の注射でも同じ行為(大泣き、大暴れ、逃走)を繰り返し、進歩はみられません。どちらが望ましいかは明白でしょう。子どもにとっては歓迎されない(受けたくないけど、我慢して受けるしかない)注射を、我慢の大切さを教えて親子関係を深める場に利用していただけたらと思います。