2020年8月30日

新型コロナウイルス感染症に伴う子どもの心身症

 新型コロナウイルス感染症の流行が始まってから、ほぼ半年が過ぎました。この間、子どもたちは「普通でない」生活を強いられてきました。全国一斉の休校措置、家庭内での補習学習、短い夏休み、過密なカリキュラム、各種イベントの中止、感染防御のための細々した決まり事など、子どもたちにとってストレスの多い環境が長く続いています。今のところ事態の収束を見通すことができません。

 心理社会的刺激(ストレス)が子どもたちに与える影響は小さくありません。当院において4月以降、心身の不調を訴える子どもが急増しています。おそらく心因反応にもとづくと思われる、頭痛、食欲不振、腹痛、倦怠感、息苦しさ、不眠、めまい、チック症(まばたき、声出し、首振り)、登校困難などの諸症状を呈する子どもたちを数十人ほど診てきました。当院は情緒安定作用を有する漢方薬を積極的に使用して、多彩な症状を緩和することに努めています。漢方薬は西洋薬(向精神薬)と異なり、副作用がほとんどなく依存性を生じないため、子どもにも安心して使用することができます。ただし薬だけで全てを解決することはできません。環境を変える努力が求められます。

 親御さんにお願いしたい点は、子どもたちのストレスに伴う心因的な反応を見逃さないことです。平素に比べて元気がない、食欲がない、甘えてくる、不安や悲しみを訴える、苛々して怒りっぽい、寝付きが悪いなどは、心が救いを求めているサインです。子どもの訴えをよく聞き、やさしく話しかけ、安心感を与えてください。異常な状況下で頑張っている子どもに対して、ねぎらいの言葉をかけることはとても大切です。また、新型コロナウイルス感染症に関する正しい知識を得て、子どもにわかりやすく伝えてください。情報源として、テレビのワイドショーは駄目です。彼等は不安を煽って視聴率を稼ぐことしか考えていません。情報の正確性は二の次です。まずは信頼できるかかりつけ医にご相談ください。当院が発信する情報(ホームページなど)を参考にしていただいても結構です。さらに、よい体調を維持するために、親子で一緒に身体を動かして楽しいことをしましょう。家に引きこもってゲームに熱中することは健全ではありません。熱中症の予防対策をしながら、ソーシャル・ディスタンシングを意識しながら、屋外の空気を吸って大いに遊びましょう。

 新型コロナウイルス感染者への差別やいじめを決して許さない姿勢も大切です。子どもは親の言動を見て真似をします。感染した人を誹謗中傷することは恥ずべき行為です。感染者と相対する医療機関や保健所などで働いている人たち(とその子どもたち)を除け者にすることも許されません。コロナ自警団や自粛ポリスなどの行き過ぎた活動も慎むべきです。他人を攻撃したり排除したりしても、得られるものは何もありません。大人が心を病むと、子どもの心も病みます。心に余裕を持って行動し、子どもによい手本を示してください。

 新型コロナウイルス感染症の流行が子どもたちにもたらす他の弊害として、肥満があげられます。夏休み明けに実施した学校定期健診で、標準体重を超過する子どもが数多く見られました。新型コロナ禍に加えて猛暑への懸念もあり、外出したり身体を動かしたりする機会が大幅に減ったためでしょう。今からでも遅くありませんので、好きなスポーツに取り組んだり、散歩をしたり、外で遊んだり、身体を動かす家事手伝い(風呂掃除、ガラス磨きなど)をしたりして、「身体を動かさない」生活習慣から脱出してください。1日あたり30分間、うっすら汗をかく程度の運動がお勧めです。