2025年8月16日

神経発達症(発達障害)の診療を考える

 神経発達症(以前は発達障害と呼称されていました)は、脳神経の一部の先天的な機能障害にもとづく疾患です。疾患よりも「特性・特質」と捉える方が適切と思われます。神経発達症はいくつかのタイプに分類さます。(1) 限局性学習症、(2) 注意欠如・多動症、(3) 自閉スペクトラム症 の三つが代表例です。自閉スペクトラム症は聞き慣れない言葉ですが、自閉的な傾向の程度(薄い人から濃い人まで)に大きな幅があることから、連続体(スペクトラム)の表現が用いられます。(4) 知的発達症(知的障害)も広い意味で神経発達症に含まれます。(2) (3) (4) の特徴・症状は重なり合い、一人で複数を合わせ持つこともあります。

 神経発達症は稀な疾患ではありません。2012年に文部科学省が行った全国調査によると、通常学級内で神経発達症の可能性がある児童・生徒数は6.5で、1学級に23人の割合でした。神経発達症の子どもは近年、増えているでしょうか? 2002年の文部科学省の調査成績は6.3%で、過去10年間で変わらないと結論されています。しかし世間の認知度が上がったことにより、新たに診断されるケースは少なくないと感じます。医療や教育の現場では、「増えている」が実感でしょう。ただ最近は 過剰診断” の傾向があり、少しでも困った行動があると安易に神経発達症が疑われるようです。医学的な妥当性から外れた使われ方も見られます。自己判断で決めつけることはせず、神経発達症をよく知る医師に相談することをお勧めします。

 神経発達症の診療は、日本でも世界でも、最近の20年間で急速に普及しました。筆者が小児科医院を開業した22年前、神経発達症に関する知見は多くありませんでした。外来診療を行う中で対応の必要性を痛感したことから、医学書を読み、学会・講演会に出席し、患児と真摯に向き合うことで、神経発達症の診療法を確立してまいりました。開業3年目に「成育外来」を土曜日午後に設置し、幼児・学童とその家族を対象として、成長や発達に関する相談と支援を行うとともに、関連機関(行政、教育、療育、専門医)との連携を図っています。

 子どもの心を専門に扱う医療機関(児童精神科、子どもの心を診る小児科)では、23ヶ月に及ぶ予約待ちが常態化しています。専門医の数が少ない現状で、どうすればよいか!? 答えは、小児科医が神経発達症の診療を積極的に行うことです。中でも小児科開業医(かかりつけ医)は、赤ちゃんの時から親子を診ている、乳幼児健診や日常の診療において発達上の問題に気づきやすい、長きにわたり親子と付き合えるなど、有利な立ち位置にいます。小児科開業医(かかりつけ医)の使命は、風邪などの一般診療を行うことに加えて、子どもの成長と発達を見守り支えることでもあります。神経発達症を診療するためには、患児・家族と何でも気軽に相談し合える信頼関係を作っておくこと、神経発達症の知識を一般的素養として持つこと、この二点がすべての小児科開業医(かかりつけ医)に求められると考えます。

 ただ、小児科外来の一般診療はしばしば多忙で、発達相談にいきなり長時間をかけることは容易ではありません。当院は、① 事前に連絡をいただき日程を調整すること、② 発達に関する情報(保育園・幼稚園・学校、療育機関から)をご用意いただくこと、③ 発達に関する予診票の記入にご協力いただくこと をお願いしています。お子さまの成長・発達に関しまして心配事がございましたら、どうぞご遠慮なくお申し出ください。

 [註]本文は2019年3月6日の「発達障害の診療について考える」の一部改訂版です。