2020年2月8日

幼稚園・保育所における感染症対策2

 前回のコラムで幼稚園・保育所における感染症対策の難しさを述べました。免疫能の発展途上にある乳幼児において、一日を通して衣食住を共にする園内で、病原体をうつされて風邪をひくことは日常茶飯事です。幼稚園・保育所で感染症の流行を百パーセント阻止することは不可能と言わざるを得ません。個々の感染症の特性を理解した上で適切な対処がなされればよいのですが、医学的な根拠に欠ける不適切な指示が出されて保護者と園児が「無駄な努力」を強いられる場面に遭遇することもあります。実例をあげましょう。

(1) 病原体診断にこだわりすぎる?
 「ノロウイルスかどうか検査してもらうこと」「RSウイルスが陰性になるまで登園不可」「家族の誰かがインフルエンザにかかったら休むこと」などの要求を見聞きすることがあります。ノロウイルスでなければ、下痢や嘔吐があっても登園してもいいのでしょうか? ノロウイルスも他のウイルスも、治療法と感染拡大予防策は同じです。ノロウイルスだけを特別視する理由はありません。RSウイルスは、乳幼児がかかると重い肺炎になることがある一方で、年長児や成人がかかっても軽い咳や鼻水で済みます。不顕性感染もあります。もしRSウイルスを完璧に排除しようとするならば、全ての園児や職員に対して毎朝RSウイルスを検査し、陰性者だけ門を通れるようにしなければなりません。もちろん無理な話です。インフルエンザにも軽症者や不顕性感染があり、RSウイルスと事情は同じです。病原体診断できる感染症だけを極度に恐れ、それだけを排除しようとする施策は、「木を見て森を見ず」に例えられます。

(2) 治癒証明書を求めすぎる?
 麻疹、風疹、水痘、流行性耳下腺炎、百日咳、咽頭結膜熱、結核などの感染症は、医師による治癒証明書が必要です。しかし発症後に登園を禁じ治癒後に証明書を提出しても、いったん生じた流行を止めることは困難です。感染の拡大は主に病初期(発症前の潜伏期や発症直後)に起こります。回復期に厳格な隔離を続けても効果は乏しく、治癒証明書の意義は些少です。咽頭結膜熱を除く上記の感染症は、ワクチンによる予防が基本です。ワクチンをもれなく接種しましょう。インフルエンザについては、コラム「インフルエンザ診療 ここが問題!」に記したとおり、治癒証明書は不要です。手足口病、ヘルパンギーナの治癒証明書は不要です。アデノウイルスは、咽頭結膜熱を発症した場合のみ治癒証明書が必要で、咽頭・扁桃炎、胃腸炎などの治癒証明書は不要です。溶連菌感染症は、抗菌薬を服用後24時間で症状が軽快していれば、治癒証明書は不要です。医学的な意味づけの乏しい治癒証明書を求めることは、保護者と園児に余計な身体的・時間的・金銭的負担を課すことになります。

(3) 数字(検査値)にこだわりすぎる?
 感染症ではありませんが、食物アレルギーについてひとこと述べます。食物アレルギーの診断根拠は、食物負荷試験陽性、明らかな症状の既往、検査(IgE抗体価)陽性の順です。検査には偽陽性や偽陰性があり、その値は参考程度に過ぎません。一部の幼稚園・保育所は検査値を示さないと除去食を出さない(あるいは解除しない)方針ですが、大きな誤りです。検査を医師や保護者に求めないことが「保育所におけるアレルギー対応ガイドライン」に記されています。

 多くの幼稚園・保育所は、子どもたちの笑顔と健康のために献身的な努力をされています。それだけに医学的な妥当性を欠く対応を時折(ほんの時折ですが)見かけることは残念であり、医療機関(とくに園医)と幼稚園・保育所の連携が足りていないと感じます。緊密な意見交換を行うことで、保護者と園児に不利益が及ばないように気をつけたいものです。