2018年9月16日

抗菌薬の適正使用をいっそう進める

 大和市小児科医会は先日、国立成育医療研究センター感染症科の宮入烈(みやいり いさお)先生をお招きし、「子どもの抗菌薬の使い方と適正使用の進め方」と題する講演会を開催しました。大和市内外の小児科医・内科医や薬剤師ら50名以上の参加があり、盛況のうちに講演と質疑応答が行われました。抗菌薬の適正使用に対する関心の高さが伺えました。

 講演はいきなり、「抗菌薬の適正使用の対策を取らなかったら、2050年には薬剤耐性菌による感染症が死因の一位になる」という衝撃的なデータ提示で始まりました。2050年といえば約30年先です。自分が年を取った時に肺炎にかかり、「残念ですが効く薬がありません」と宣告されて苦しみながら死ぬのは嫌です。また、そのような好ましくない事態を次世代に遺すわけにはいきません。抗菌薬の適正使用と薬剤耐性菌の抑制は、我々の世代の医師に課せられた重大な責務です。

 抗菌薬の適正使用は世界的な問題です。日本だけでなくアジアやヨーロッパなど一部の国々では、抗菌薬の乱用が今も続いています。世界保健機構(WHO)は2015年、薬剤耐性菌に関する国際行動計画を採択し、各国に具体的な計画を策定するように要請しました。これを受けて日本政府は、現在汎用されている経口抗菌薬を2020年までに50%減らす目標を立てました。主なターゲットは「風邪」です。風邪に抗菌薬は効きません。医師のみならず医学生でも知っている常識ですが、今なお風邪に対して、とくに熱があったりすると、「念のために」と称して抗菌薬を処方する医療が横行しています。抗菌薬をホイホイと気前よく出してくれる医者が良い医者、というのは大きな誤解です。抗菌薬に解熱作用はありませんし、風邪の原因であるウイルスを殺す作用もありません。薬を飲んで熱が下がって治ったように見えても、それは自身が持つ免疫反応が病原体(ウイルス)をやっつけた結果です。「飲んだ、治った、だから効いた」は誤った三段論法です。風邪の場合、抗菌薬を「飲まなくても治る」ケースが大半を占めます。すべての医師が風邪に対する抗菌薬の無意味な使用を止めれば、目標とする50%減は容易に達成できるでしょう。

 風邪は万病の元と言うじゃないか、風邪が悪化して肺炎や中耳炎になったら困るじゃないか、という懸念はあると思います。まさにそのとおりです。しかしだからといって、風邪に抗菌薬を使っておけば肺炎や中耳炎にならずに済むかと言うと、それは間違いです。抗菌薬に予防作用はありません。むしろ使うことにより、薬剤耐性菌を誘導して肺炎や中耳炎を難治化させます。腸内細菌叢を痛めつけて下痢や慢性疾患をもたらす弊害もあります。それらが積もり積もると、冒頭の「薬剤耐性菌による死亡が一位 …」につながるわけです。では、どうすればよいか!? 大切なことは時間に伴う病状の変化です。風邪と診断したら慎重に経過を見ます。風邪から肺炎や中耳炎に進まないか、ドキドキ・ハラハラしながら推移を見守ります。親御さんには「これこれこういう症状が出たら、必ず再受診してくださいね」という具体的な指針を示します。そして、これはもはや風邪ではないと判断したら抗菌薬の使用に踏み切ります。「時間」はとても大切な要素です。すぐれた医師は時間を上手に活用しますし、病状の変化を見極める眼を備えています。なかには、いきなり抗菌薬の出番が来るケースもあるにはあります。そのような数少ない例外(風邪ではない重症感染症)を見逃さない眼も必要です。

 講演会後に宮入先生と懇談した際、「抗菌薬の適正使用の概念が国民に浸透したら、医師の評価基準が変わるでしょう。適正使用に努めている医師が生き残る時代が来ると思います」という話が出ました。心強いコメントです。有効な抗菌薬を次世代に引き継いでもらうために、抗菌薬は「ここぞ!」の場面に使うという姿勢を今後も持ち続けたいと思います。

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