2017年12月10日

インフルエンザ検査は有用か?

 インフルエンザの診断について考えてみます。冒頭の「インフルエンザ検査は有用か?」の問いに対する答えは、もちろん「有用」です。インフルエンザの流行期において、高熱を出す病気はインフルエンザ以外にもいろいろあります。検査によってインフルエンザを正しく診断し、適正な治療を行うことで、発熱の期間を約25時間短縮でき、入院(重症化)のリスクを約6割に減らすことができます。インフルエンザ検査のなかった時代は(わずか十数年前のことです)、インフルエンザと細菌感染症を明確に区別することができず、やむを得ず抗菌薬(インフルエンザには無効)を使用する場面が多々ありました。インフルエンザ検査は、インフルエンザをピンポイントに絞って治療するために欠かせない道具といえます。

 では、「検査をすればインフルエンザを確実に診断できる」でしょうか? 答えは「ノー」です。インフルエンザ検査は万能ではありません。A型インフルエンザに対する検査の感度は90〜95%、B型インフルエンザに対しては90%未満です。言い換えると、A型に罹っているにもかかわらず検査で「陰性」と判断されるケースが5〜10%、B型に至っては10%以上あることになります。これを「偽陰性」といいます。ウイルスがまだ十分に増殖していない病初期であれば、偽陰性の確率はさらに上がって20〜25%になります。「検査で陰性だからインフルエンザではない」とは言い切れないことをご理解いただけるかと思います。「熱が出たらすぐに医療機関に行ってインフルエンザ検査をしてもらって下さい」という “指示” が幼稚園・保育園や学校から出される場面にしばしば遭遇しますが、これは二重の意味で間違っています。発熱の直後は偽陰性が多いため、検査に十全の信頼を置けません。さらに、陰性だからインフルエンザではないと判断して登園・登校を続けていたら、実はインフルエンザに罹っていて(検査は偽陰性だった)、園や学校で流行を広げる結果になった、という事態も起こり得ます。

 インフルエンザ検査に100%の信頼が置けないとすると、診断に最も大切な要素は何でしょうか? 正解は言うまでもなく、診療の基本である「病歴と診察」です。インフルエンザの流行情報を常にアップデートすること、病状を詳しく尋ねること、視診・聴診・触診などの五感を用いて丁寧に診察すること(技能の習得には知識と経験が必要です)、以上の三点を心がければ、かなり正確にインフルエンザの診断をつけることができます。とくに病初期(発熱から数時間以内)は、検査ではなく、病歴と診察に重きを置くべきです。検査がたとえ陰性であっても、インフルエンザが臨床的に強く疑われるときは、抗インフルエンザ薬による治療を開始しますし、登園・登校は控えてもらいます。前述の「インフルエンザの検査をしてもらって下さい」は、「インフルエンザかどうか、よく診てもらって下さい」の方が適切です。

 しかし残念なことに、医師の判断もはやり100%ではありません。過信は禁物です。検査の限界を認識しつつも、検査を補助手段として有効に活用することで、診療の幅を大きく広げることができます。とくに病歴や診察だけでインフルエンザかどうか確信が持てないとき、検査はとても重宝します。さいわい、インフルエンザ検査の「偽陽性」は少ないです。病歴、診察、検査の三つを上手に組み合わせて、インフルエンザ診療の精度を高めることに努めています。