2017年10月15日

鼻水と鼻づまりの話 〜 薬の使用は慎重に 〜

 かぜをひくと、発熱、鼻水・鼻づまり、咳・痰などが現れます。子どもがつらそうな顔をしていると、かぜの症状を一刻も早く取り去ってあげたいのが親の心情でしょうね。しかしこれらの症状は、病原体を体内から排除するための大切な生体防御反応です。薬剤を使って無理に抑え込むことが必ずしも良い治療とは限りません。発熱の意義については、コラム「熱が出る仕組み」(2012年9月)で述べました。今回のコラムでは、鼻水・鼻づまりの仕組みについて解説します。

 健康な時も、鼻水は鼻粘膜から分泌され、鼻腔内に潤いをもたらしています。かぜの時、鼻粘膜が病原体に侵されると、粘膜下の毛細血管が拡張し、粘膜が赤く腫れます。これを「炎症」といいます。粘膜が腫れると鼻づまりが起こります。拡張した血管から血漿が滲み出ると、これが鼻水の主成分になります。鼻水は病原体などの異物を体外に排出する役割を担っています。

 鼻水は奥にすすらずに、かむことで外に出しましょう。ただし強くかみすぎると鼻水が耳管を通って耳の奥に達し、中耳炎の原因になります。鼻かみは「片方ずつ」「少しずつ」「やさしく」を意識してください。鼻をかめない乳幼児には、鼻水を吸い取ってあげましょう。医学が進歩した現代でも、この原始的な治療法が最も有効で確実です。鼻吸い器を家庭にひとつ常備しておくと便利です。口やポンプで吸引する手動タイプで十分ですが、保育園などに通っていて鼻かぜを頻繁に繰り返す場合は、電動式の吸引器を購入してもよいと思います。きっと役に立ちます。

 「鼻水止め」として昔から使われてきた薬(ポララミン、ペリアクチン、タベジールなど、第一世代の抗ヒスタミン薬)は、最近になって効果を疑問視されています。薬の作用により鼻水の分泌量を減らすことはできますが、そのために鼻水の粘稠度が上がり(粘っこくなり)、排出を妨げてしまいます。鼻づまりを増長させる上に、病原体の排出を邪魔するわけです。この作用は鼻腔だけでなく気管・気管支にも及び、喀痰の排出を妨げて咳を長引かせます。また、第一世代の抗ヒスタミン薬は、脳神経に対して強い鎮静作用を有しており、集中力・作業効率の低下や眠気をもたらします。子どもでは熱性痙攣の持続時間を延ばすことが知られています。第一世代の抗ヒスタミン薬を使うことには慎重でなくてはなりません。市販のかぜ薬にしばしば含まれているので注意が必要です。

 第二世代の抗ヒスタミン薬(アレグラ、アレジオン、アレロック、ザイザルなど)は、脳神経への移行が少なく、眠気が出にくい特徴を有しています。アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患に伴う痒みに適応があります。アレルギー性鼻炎による大量の鼻水は生活の質(QOL)を著しく低下させるので、こういう時は鼻水止めを使用してもよいでしょう。当院で抗ヒスタミン薬を使用する際は、第二世代を選択します。また、鼻水、鼻づまりをうまく制御する漢方薬があります。小青竜湯、葛根湯加川芎辛夷、麻黄湯などです。漢方薬には抗ヒスタミン作用がなく、炎症を鎮めたり生体の防御反応を高めたりする作用があるので、鼻かぜの治療にとても重宝します。当院は漢方薬を積極的に利用しています。使い方にはコツがあります。飲ませ方のコツ(味はあまり良くありません)は、コラム「夏かぜに漢方薬」(2017年5月)をご参照ください。