2015年11月6日

ノロウイルスについてもっと知ろう

 毎年秋から冬(11〜3月)にかけて、ノロウイルスによる感染性胃腸炎が流行します。感染性胃腸炎の原因となる微生物は多種にわたりますが、ノロウイルスはその半分以上を占めていいます。これからの季節、世間を大いに騒がせるノロウイルスについて解説します。

<ノロウイルスの特徴>
 ノロウイルスは、乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層に感染します。一生のうちに何度もかかる理由は、免疫の持続期間が短い、複数の異なる型のノロウイルスがある(今季は「新型」の流行が懸念されています)、の二点です。感染様式は、ウイルスが口から体内に入る経口感染です。侵入経路として、感染者の吐物や便に触れる、汚染された食品(特に生や加熱不十分の二枚貝)を摂食する、の二通りがあげられます。感染中の食品取扱者を介する食中毒も時に見られます。ノロウイルスの感染力は非常に強く、約10個のウイルスを取り込むだけで胃腸炎を発症します。ちなみに、吐物や便1グラム中に100万個以上のウイルスが含まれています。消毒薬に対する抵抗力が強いことも特徴です。アルコール、高温、乾燥、水中などの悪条件下でも生き続けます。

<ノロウイルス胃腸炎の症状・診断・治療>
 ノロウイルスが体内に入ると1〜2日の潜伏期間を経て、嘔吐・下痢・腹痛などの症状を起こします。発熱は軽度(37〜38℃)です。症状は通常、1〜2日ほど続いた後に軽快します。ただし、免疫力の弱い高齢者や乳幼児では症状が長引くことがあり、脱水などの合併に注意が必要です。嘔吐や下痢の症状だけで、ノロウイルスか他の病原体かを区別することはできません。診断の確定に便検査(ノロウイルス迅速診断)が必須ですが、ノロウイルスであってもなくても治療法に大きな変わりはないので、当院は原則として便検査を行っていません。検査が必要なケースは、食品を取り扱っている、高齢者や乳幼児の施設で働いている、などの方々でしょう。ノロウイルスに対する特異的な治療法は存在しません。身体の安静を保つ、水分と塩分と栄養をこまめに補給する、必要に応じて薬剤(整腸剤、制吐剤など)を使用するなど、感染性胃腸炎の一般的な治療法がノロウイルスにも適用されます。

<ノロウイルスの予防>
 ノロウイルスに対するワクチンの製造は技術的に難しく、実用化はまだ遠い先のようです。したがって、流行期間中は暮らしの中での感染予防対策が重要です。(1) 手洗いは、指輪などを外し手の隅々まで石鹸の泡をたててから流水で十分に洗い流してください。洗うタイミングは、調理前、食事前、トイレ後、オムツ交換後、吐物・下痢の処理後です。(2) カキなどの二枚貝を食べる時は十分に加熱してください。85℃以上、1分以上が必要です。汚染が気になる食器や調理器具は、洗剤で十分に洗った後、熱湯消毒するか塩素系消毒薬に浸してください。(3) 嘔吐や下痢の症状がある間は、調理をできるだけ控えましょう。(4) 家族内に嘔吐や下痢を呈する人がいる場合、手洗いの励行に加え、住環境、特にトイレや浴室の衛生に留意してください。吐物や便で汚染された区域は、ペーパータオルやティッシュペーパーで何重にも覆い、その上から塩素系消毒薬を散布します。10〜15分たったらビニール手袋を着用して(素手で触れずに)これらを取り除きます。塩素系消毒薬が使えない場合、消毒用アルコール(70〜80%濃度)か75℃以上の熱い湯を3〜4回散布して処理する方法で代用できます。(3)(4) に関してもう一つ留意すべき点は、症状が消えた後も2〜4週間、少量のノロウイルスが便中に排出されることです。もう治ったと油断せず、感染中と同様の用心を続けてください。以上の予防法はノロウイルスに限った話ではありません。感染性胃腸炎すべてに共通する原則としてご配慮ください。