2014年10月8日

スキンケアはアレルギー全般の予防に有効か !?

 赤ちゃんの肌はとてもデリケートです。皮膚が薄く、皮脂の分泌量が少なく、角質層を構成するセラミドが少ないため、皮膚のバリア機能が十分ではありません。汗、垢、食べこぼし、微生物などの外的な刺激を受けると損なわれやすく、乾燥肌や湿疹を容易に生じます。これらの皮膚病変によりバリア機能が低下すると、ダニや食物などのアレルゲンが皮膚を通過しやすくなり、アレルギー感作の危険性が増します。近年、食物アレルギーの成立過程は、食物を摂取して消化管を通る経路よりも、皮膚から直接侵入する経路(経皮感作)の方が重要と考えられています。加水分解小麦を含む「茶のしずく石鹸」が小麦アレルギーを誘発した事件(2011年)をご記憶の方もいらっしゃると思います。

 赤ちゃんの皮膚を健常に保つための基本は、皮膚を清潔に保つこと(清潔)と乾燥を防ぎ湿度を保つこと(保湿)の二点です。ただし、この二つのスキンケアには相反する面があります。皮膚を洗いすぎると、皮脂やセラミドや天然保湿因子(アミノ酸、尿素、乳酸塩など)まで流出し、皮膚の乾燥を助長します。保湿剤によるケアを併せて行い、皮膚のバリア機能を補うことが欠かせません。赤ちゃんに用いる保湿剤には、(1) 皮膚の表面に油膜を作り水分の蒸発を防ぐタイプ(白色ワセリン、プロペト軟膏など)、(2) 水分と結合して保湿効果を発揮するタイプ(ヒルドイドソフトなど)があります。当院は、皮膚の状態、使用感、季節などによってこれらを使い分けています。最低でも1日1回、入浴後、まだ皮膚の角質層に水分が残っているうちに保湿剤を丁寧に塗って水分を封じ込める方法がよいとされています。

 保湿剤によるスキンケアに関する興味深い成績が先日、国立成育医療センターから発表されました。家族内のだれか(親、兄弟)にアトピー性皮膚炎の人がいる赤ちゃんを、1日1回以上入浴後などに保湿剤を全身に塗るグループと特別なスキンケアをしないグループの二群に分けて、生後8ヶ月間にわたりアトピー性皮膚炎の発症の有無を追跡調査しました。その結果、保湿剤を塗ったグループのアトピー性皮膚炎の発症率は、特別なスキンケアをしなかったグループに比べ、32%減少することが分かりました。乾燥による皮膚のバリア機能の低下を保湿剤の塗布で防ぐことが、アトピー性皮膚炎の発症を約3割減らしたのです。保湿剤にアトピー性皮膚炎の予防効果があることを医学的に証明した、世界初の報告です。また、アトピー性を発症した赤ちゃんは、発症しなかった赤ちゃんに比べ、卵の特異的IgE抗体価(卵アレルギーの可能性を示す数値)が高くなっていることも分かりました。保湿剤で皮膚のバリア機能を保つことが、食物アレルギーの発症予防にもつながる可能性が示されたことになります。

 アトピー性皮膚炎の要因は多岐にわたるため、保湿剤だけで完全に防ぎきれるわけではありません。過信は禁物です。しかし、保湿剤をこまめに塗ることが、アトピー性皮膚炎の予防、さらには食物アレルギーの予防の一助になりうるという事実は、アトピー性皮膚炎のハイリスク児(アトピー性皮膚炎の家族歴がある児)にとって朗報です。アレルギーマーチという言葉があるように、同一人物において、乳児期のアトピー性皮膚炎や食物アレルギーに続き、幼児期から学童期にかけて気管支喘息やアレルギー性鼻炎を発症するケースが少なくありません。保湿剤でアトピー性皮膚炎を予防し、それでも発症した場合はその後の治療(ステロイド外用薬などの適正使用)で皮膚を健常に保ち、その結果として複数のアレルギー疾患を短期的および長期的に予防することを目指したいと思います。