2014年4月7日

ペットとアレルギー疾患

 「ペットを飼いたいけどアレルギーが心配で …」という声をよく聞きます。診療中に質問を受ける場面も多々あります。今回は、アレルギー疾患を持つ子どもがペットを飼ってよいかどうかを考えてみましょう。

 アレルギーの原因になりやすいペットとして、イヌやネコなど毛の多い動物、鳥など羽のある動物があげられます。イヌやネコのアレルゲン(アレルギーの原因になる蛋白質)は、唾液や皮脂腺で作られ、皮膚や毛に付着しています。代表例は、イヌのCan f1(キャンエフワン)とネコのFel d1(フェルディーワン)です。これらは非常に細かい粒子として存在するため、いったん空気中に舞い上がると長時間、浮遊し続けます。Fel d1は壁に付着しやすい性質もあります。イヌやネコを別の部屋に隔離しても、アレルゲンが浮遊していたり壁や床に付着しているうちは、アレルギー症状が誘発されます。また、イヌやネコをこまめに洗っても、アレルゲンの量は3〜4日で元のレベルに戻ります。週2回シャンプーをすればいいのでしょうけど、頻回の洗浄はイヌやネコに皮膚炎を起こす可能性があります。つまりあれこれ工夫しても、アレルゲンからうまく逃れることは難しいようです。

 アレルギー疾患を持つ子どもが「ペットを飼いたい」と申し出た場合、四つの状況に分けて対応することが必要です。
 ① ペットとの接触で明らかな症状が出る場合 → 当然、飼ってはいけません。
 ② ペットに感作を受けているが(血液検査でペット特異的なIgE抗体が陽性だが)、接触しても軽微な症状しか出ない場合 → 後に悪化する可能性があり、飼ってはいけません。
 ③ ペットに感作を受けているが、接触しても症状がまったく出ない場合 → 最初は大丈夫でしょうけど、後に症状を発現する可能性があります。そうなった時に新しい飼い主を探すなどペットを手放す覚悟がないと、飼うことは勧められません。
 ④ 何らかのアレルギー体質を有するが、ペットには感作を受けていない場合 → たとえ血液検査でペット特異的なIgE抗体が陰性であっても、気管支喘息かアトピー性皮膚炎を有している子供には飼うことを勧められません。最初は大丈夫でしょうけど、後に症状を発現する可能性があります。そうなったとき、ペットを手放す覚悟が必要です。

 現時点での結論として、アレルギー児はペットを飼うべきではないと考えます。抱っこしない、キスをしない、寝室に入れない、布製家具に近寄らせない、屋外でのブラッシングをまめにする、よく洗う、空気清浄機を備える、などの対策が示されていますが、完璧に実行することは難しいでしょうし、その効果に限界があることは先に述べたとおりです。

 アレルギー児にとって、希望がまったく無いわけではありません。欧米の論文で、妊娠中や出生時早期から(つまり発症前や感作前から)イヌやネコを飼育していると、その後のアレルギー疾患の発症がむしろ抑えられるという報告がいくつもあります。衛生仮説(2010年11月のコラムを参照)と関連するようです。ただし、日本ではまだ証明されていません。イヌの飼育に関して、肯定的な結果(アレルギー性鼻炎を減らす)と否定的な結果(気管支喘息を増す)が出ています。住居構造や遺伝的背景が欧米と異なるため、欧米の論理を単純に当てはめることは難しいようですが、今後の研究の発展に期待したいと思います。

 <引用文献;日本小児アレルギー学会誌(2014年)>