2014年2月20日

誤解の多い!? アトピー性皮膚炎 (1)

 アトピー性皮膚炎は、長い付き合いを要する病気(または体質)です。適切な治療により皮膚の状態を良好に保つことはできますが、短期間で病気(体質)そのものを完治させることは困難です。ただし多くの場合、子どもの成長とともに自然に良くなっていきます。

 アトピー性皮膚炎の治療法の基本は、(1) 皮膚炎に対してステロイド外用薬(塗り薬)を十分に使用する、(2) 皮膚炎が改善した後は皮膚の清潔と保湿に努め(保湿薬も使用し)、皮膚炎が再燃した時だけステロイド外用薬を使用する、の二点です。近年、治療薬として、ステロイド外用薬の他にプロトピック軟膏も用いられています。しかし、ステロイド外用薬に対する誤った理解がしばしば先行し、正しい治療の妨げになっています。

 ステロイド外用薬の短所は、(1) 正常な皮膚に長期間使用すると、皮膚萎縮や毛細血管拡張が起こる、(2) 皮膚感染症(とびひ、水いぼ、毛嚢炎など)の部位に使用すると、感染が悪化しやすい、の二点です。しかし適切に使用することにより、これら局所的な副作用を避けられます。もしも生じても、回復させることができます。また、強力な内服薬タイプと混同されがちですが、外用薬タイプは全身的な副作用を生じることはまずありません。

 ではステロイド外用薬は、なぜ過度に恐れられているのでしょうか。原因は1980年代のステロイド訴訟に遡ります。医師の指示なく(化粧の乗りが良くなると思い込んで)、ステロイド外用薬を2年間顔面に塗り続けて皮膚炎を起こした女性が医師を訴えたのです。このステロイド訴訟をきっかけに、マスメディアの「ステロイド叩き」が始まりました。とくに1992年、久米宏がキャスターを務めるニュースステーション(テレビ朝日系列)は一週間にわたって「悪魔の薬」などの表現で執拗な攻撃を繰り返し、一般の人々のステロイド外用薬への不信感を決定づけました。後になって自らの誤りに気づいたのか?ステロイド叩きを止めましたが、当時の過熱した異常な報道の呪縛はいまだに解けないままです。ステロイド外用薬を拒否して民間療法や脱ステロイド療法に走り、皮膚炎をひどくした事例は数え切れないほどあります。メディアの持つ影響力と恐ろしさを感じます。

 ステロイド外用薬に不安を抱く人からしばしば尋ねられる質問は、(1) 徐々に効きにくくなる、(2) 止めると再悪化する(リバウンドがある)、(3) 色が黒くなる、などです。(1) は薬のランク(強さ)が適切でないか、塗り方(量、回数、タイミング)が適切でないと起こります。使用法の問題であって、ステロイド外用薬の問題ではありません。(2) は中途半端に治療を止めることで皮膚炎が再燃して起こります。これも使用法の問題です。(3) は皮膚炎を生じた後の色素沈着です。ステロイド外用薬の副作用ではありません。他にも、子どもが産めなくなる、骨がもろくなる、皮膚が溶ける、口が裂ける!? などいろいろありますが、いずれも根拠の薄い憶測に過ぎません。ご心配は無用です。

 ステロイド外用薬は、アトピー性皮膚炎の治療に欠かせない「普通の薬」です。医師の説明をしっかり受けて正しく使用すれば、決して恐れることはありません。したがって、正しく使って(塗って)いただくための説明はとても大切ですね。薬をポンと出されて終わり … では、使用する側の不安は払拭されないと思います。当院はできるだけ分かりやすい説明に努めます。