2013年9月16日

母乳と薬 ~ 多くの薬は授乳中でも服用可能 ~

 授乳中のお母さんから、薬を飲んでよいかどうか尋ねられることがあります。授乳を中止せざるを得ないのは、一部の特別な薬だけです。多くの薬は安全に飲むことができます。ご質問いただければ、個々の薬について適切な情報をお伝えいたします。しかし現実には、病院や薬局で「薬が母乳中に出るので、服用している間は授乳を控えてください」と言われ、泣く泣く授乳をやめるケースがあります。また、授乳を続けるために薬を飲まずに我慢して、病状を悪化させてしまうケースもあります。どちらも情報を伝える機会があれば、と残念に思います。

 母乳には多くの利点があります。母乳は栄養素のバランスがよく、消化と吸収にすぐれています。母乳には、病原体から身を守る免疫抗体が含まれています。母乳を与えることで、母子のスキンシップが図られ、情緒の安定が得られます。人工乳が良くないわけではありませんが、母乳にかなわない点がたくさんあります。不必要に母乳を中断して人工乳に変えることは、お母さんにとっても赤ちゃんにとっても望ましくないことですね。

 お母さんが服用する薬の1%未満は、母乳中に移行します。しかし、赤ちゃんに有害な作用をもたらす薬は、① 抗がん薬、免疫抑制薬、放射性医薬品、② 一部の抗生物質、向精神薬、ホルモン薬、などに限られています。①は「禁忌」、②は「要注意」の扱いです。一般に使用される薬、たとえばかぜ薬や多くの抗生物質は、赤ちゃんに移行しても悪い影響をまず及ぼしません。ただし、薬を服用している間、赤ちゃんの様子をよく見ておくことは大切です。むずかりやすい、便がゆるい、よく眠る、などの変化がごく稀に見られることがありますが、その時点で薬を中断すれば消失します。のちのちに問題を残すものではなく、ご心配は無用です。薬を飲む時の工夫の一つとして、授乳のすぐ後に服用すると次の授乳までにある程度が代謝されて、母乳に出る量が少なくなります。

 たとえば、お母さんがかぜをひいた場合を考えてみましょう。かぜのウイルスは母乳中に移行しません。かぜのウイルスと闘う免疫抗体は母乳中に移行します。解熱薬やかぜ薬は母乳中にわずかに移行しますが、ほとんどの薬は赤ちゃんに害をもたらしません。したがって、お母さんがかぜをひいた時でも、母乳はむしろ赤ちゃんを守るために有用ですし、薬を飲みながら授乳を続けることも可能です。赤ちゃんをかぜから守るためには、授乳を続けること以外に、赤ちゃんに触れる前に石鹸を使ってよく手洗いをすること、マスクを着けて赤ちゃんに咳やくしゃみをかけないことを心がけてください。

 わが国の医薬品添付文書(薬の説明書)は、「服用中は授乳しないように」という記述だらけです。これに従うと、ほとんどの薬は、授乳を中止しなければなりません。しかしこの説明書は科学的な根拠に乏しく、今の時代にそぐわなくなっています。厚生労働省もこの点を認めているようです。より信頼できる参考文献として、「母乳とくすりハンドブック」(大分県/母乳と薬剤研究会 編)(http://www.oitaog.jp/syoko/binyutokusuri.pdf)、「母乳とくすり」(水野克己 著、南山堂)などがあげられます。当院は、これらに基づいた情報提供を行っています。授乳中のお母さんの悩みを解決する一助になれば、と期待しています。

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