2012年12月24日

漢方医学の子どもへの応用

 漢方医学と聞いて、皆さんは何をお考えになるでしょうか。「何となく効きそうだ」という肯定派から、「科学的な裏づけはあるの?」という懐疑派まで、さまざまなイメージがあると推察します。漢方薬は、小児科領域で使用される頻度はまだ高くありませんが、有効性と安全性に関する評価はほぼ固まっています。西洋医学でこれといった切り札がない病気に対して、漢方医学はとても重宝します。西洋医学のアプローチを主軸にしつつ、カバーできない部分を漢方医学で補完する、というのが当院の基本方針です。

 漢方薬は、複数の生薬(植物の根・茎・果実、鉱物、小動物などを加工したもの)を治療目的に組み合わせたものです。約二千年にわたる膨大な経験の集積により、現在の漢方薬の数々が作り出されてきました。人類の知的財産といえましょう。漢方薬は、西洋医学的な視点からも解明が進められており、その薬理作用のいくつかはすでに検証済みです。

 漢方薬は大きく分けて6種類の効力を有します。(1) 感染に対する免疫調節作用、(2) 鎮咳作用、(3) 消化機能改善作用、(4) 水分代謝調節作用、(5) 情緒安定作用、(6) 成長補助作用です。個々の薬によって作用は大きく異なりますが、生薬の複合体という本来の性質から、単独の臓器だけでなく身体全体に調和的に作用することが、漢方薬に共通する特長です。

 西洋医学で対処しきれない病状に対して、漢方医学というツール(道具)を持っていることは、小児科医にとって非常に便利です。たとえば、中耳炎をよく繰り返す、のどの痛みが取れない、水いぼができやすい、お尻のおできが治りにくい、お腹がすぐに痛くなる、食欲が出ない、疲れやすい、元気がない、乗物酔いをしやすい、吐きやすい、夜泣きが激しい、チックが治らない、癇癪(かんしゃく)を起こしやすい、不安が強い、等々の訴えには漢方医学が適しています。これらの病状では、西洋医学に代わって漢方医学が主役にさえなります。

 漢方薬の難点は、味と香りが子どもに馴染みにくいことでしょうか。いくつかの薬は比較的飲みやすいですが(甘麦大棗湯、小建中湯、葛根湯、薏苡仁など)、多くの薬は内服にひと工夫を要します。乳児では、湯で練ってペースト状にして上顎に指で塗りつける方法が適しています。幼児は言い聞かせが難しい時期ですので、いろいろな工夫が考えられています。たとえば、熱い湯に溶いて冷ましてから飲む、熱い湯に溶いて砂糖やハチミツを入れてから飲む(ハチミツは1歳以上)、ココア・クリーム・ヨーグルト・アイス・リンゴジュースなどに混ぜて飲む、薬を練り込んだクッキーやホットケーキを作る、等々です。漢方薬は一部を除いて加熱しても失活しませんので、工夫の幅は広いです。

 医食同源とか薬膳という言葉があるように、漢方薬は古来、食品の一部として病気の予防や治療に使われてきました。小児科医にとっても利用価値の高い薬であり、今後いっそう積極的に活用したいと考えています。