2010年4月26日

ジェネリック医薬品

 ジェネリック医薬品という言葉をご存知ですか。ジェネリック医薬品とは、特許の切れた薬を他のメーカーが真似て作ったものです。新薬の開発に伴う費用が要らないため、価格を先発品よりも2~8割安く設定できます。国(厚生労働省)は医療費削減のためにジェネリック医薬品の使用を強く推奨し、テレビ・コマーシャルは「同じ薬が半額以下」「使わなきゃ損」と盛んに宣伝しています。まるで「ジェネリック医薬品を積極的に使わない医療機関は遅れている」と言わんばかりです。しかし本当に良い事ずくめなのでしょうか。

 薬は、有効成分、添加物(賦形剤、保存剤など)、剤形(錠剤、散剤など)の三要素からなります。ジェネリック医薬品で、先発品と同じ要素は有効成分だけです。添加物と剤形は同じとは限りません。その結果、先発品には含まれていない添加物が副作用や過敏症を招く可能性がゼロではありません。あるいは、剤形(コーティングの種類など)の違いにより、有効成分が体内で解け出す速度や分解される速度に変化をきたし、同じ薬のはずなのに効き過ぎたり効きにくかったりすることが起こり得ます。ジェネリック医薬品がオリジナルの先発品と必ずしも同一ではないことをお分かりいただけると思います。

 ジェネリック医薬品の承認申請に際して、「有効性の試験」は課せられますが、「安全性の試験」は存在しません。添加物や剤形の違いで思わぬ薬理作用が起こるかもしれないというのに、その審査が省略されているのです。副作用情報がほとんど無いというのは、使う側にとって大変に不安なことです。社会的信用度の高いメーカーならともかく、技術力が未知のメーカーの薬となると、どうしても使用に二の足を踏んでしまいます。

 ジェネリック医薬品ばかりが普及するようになると、新薬を開発する意欲をメーカーが失う恐れがあります。新薬の開発には通常、100~150億円の資金と10~15年の時間が必要とされています。もしも日本のあらゆるメーカーが新薬の開発を放棄して手軽なジェネリック薬の製造に走ったら、日本の技術力と国際競争力はあっという間に転落してしまうでしょう。科学技術立国の危機です。ジェネリック”先進国”のドイツで、今まさにそのような由々しき事態が生じています。世の中には、新たな治療薬やワクチンを必要とする病気がまだ数多く残されています。国は目先の医療費削減だけに心を奪われず、新薬の開発力を育成して国民の健康を守るという長期的な発想を持ってもらいたいものです。

 ジェネリック医薬品に対して厳しい見方を示しましたが、利点にも目を向ける必要はあります。ジェネリック医薬品の魅力は、何と言っても価格の安さです。特に長期間にわたり薬を必要とする方々にとって、価格の引き下げは朗報でしょう。また、ジェネリック医薬品の中には、十分な使用実績があり、品質評価と安全性の確立された薬がいくつもあります。服用しやすさ(小型化、味の改良)や安定性など、付加価値の点で先発品より優れた薬もあります。当クリニックでは、ジェネリック医薬品だから良いとか悪いとか画一的に扱うのではなく、個々の薬について品質と安全性をよく吟味した上で採否を決めたいと考えています。