2005年7月4日

日焼けはほどほどに

 筆者が少年だった頃、日焼けは健康のシンボルでした。夏の海辺でクロンボ大会が催され、皆で競い合って肌を焼いたものです。それほど昔でなくても、平成10年までの母子手帳には「外気浴や日光浴をしていますか」と記載されていましたし、今でも7割以上の人が「日焼けすれば身体が丈夫になる」と信じています。日光浴がかくも推奨される最大の理由は、日光に含まれる紫外線により体内でビタミンDが合成され、これがくる病(骨のミネラルが不足する病気)を防止する効果を持つためです。

 ところが、近年の栄養事情の改善とビタミンD摂取量の増加に伴ってくる病が激減し、代わって紫外線による皮膚癌の危険が実証されてくると、これまでの論調が一転して「日光浴は百害あって一利なし」と唱えられるようになりました。母子手帳から日光浴の字句が削除され、薬局には子ども用の日焼け止めが花盛りです。昨日の英雄が今日の悪玉に転落したかのようです。日光浴は有用か、それとも有害か、一体どちらが正しいのでしょうか!?

 オーストラリアの疫学調査では、10歳までに浴びる紫外線の量が多いほど、生涯の皮膚癌の発生率が高くなるという数字がでています。別の研究では、皮膚の癌抑制遺伝子p53の突然変異率が、非露光部に比べて露光部で高い(つまり露光部の方が発癌しやすい)ことが報告されています。これらの成績は白人のデータにもとづくもので、日本人に必ずしも全てが当てはまりませんが、日光を浴びすぎると皮膚癌の危険が増すことは間違いないでしょう。

 一方で、子どもにとって戸外で遊ぶことは心身の健全な発達に欠かせません。日光浴の害を強調するあまり屋内に閉じこもることは避けて、おおいに新鮮な外気を吸い未知の世界を探訪して欲しいものです。外出時の日焼けを最小限に減らすために、① 夏の10~14時の外遊びを控える、② できるだけ日陰で行動する、③ 帽子、長袖の衣類、日傘で露出部を少なくする、④ 子ども用の日焼け止めクリーム/ローションを使用する、などの工夫が役に立ちます。保育園、幼稚園、学校の方々には、子どもを炎天下に長時間おかない配慮をお願いします。真っ黒に焼けた肌を賛美する風潮を改め、といって日焼けを過度に恐れて神経質になりすぎることなく、真夏の太陽と上手に付き合っていきましょう。